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原田 藍 さん
久留米大学病院
皮膚・排泄ケア認定看護師
2004年久留米大学病院入職。呼吸器・心臓血管外科病棟勤務を経て、高度救命救急センターに異動。
2018年皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得し、院内で組織横断的に活動中。
当院は福岡県久留米市に位置する1,018床の大学病院です。
そのなかで私がもともと所属していた高度救命救急センターは、救急領域での初期診療から集中治療まで迅速に対応しています。福岡県ドクターヘリ、久留米市ドクターカーを活用した病院前診療や、災害拠点病院としてDMAT活動にも力を注いでいます。


従来、院内にはAライン(動脈留置カテーテル)管理の統一したマニュアルがなく、関与する部署それぞれに運用を任せている状態でした。
そのなかで、Aラインカテーテル接続部の圧迫によるMDRPU(医療関連機器褥瘡)発生が課題となっており、病院全体でのMDRPU発生件数は2021年度15件(うち救命センター5件)、2022年度20件(うち救命センター9件)と、直近では増加傾向にありました。また件数だけでなく深達度も課題であり、状態の悪い患者も多いためDTI、DUの深いMDRPUが発生していました。
MDRPUが発生してしまうと、治癒にコストがかかるだけでなく、患者に身体的・精神的苦痛が生じます。そういった患者の不利益を見過ごすことはできず、褥瘡専従看護師と協力して予防対策に取り組むことを決意しました。
年齢:50歳代 性別:男性
心肺停止蘇生後(急性心筋梗塞)
Aライン挿入後、刺入部からの出血が止まらず、緊急性も高いため止血目的固定バンドのようなもので圧迫されていた。さらに、上から抑制帯により圧迫され…。
観察はしていたが、除圧はできておらず、約10日後、固定バンドを除去した際にMDRPUが発生していた。幸い、神経損傷等なく右手の手指の動きは問題なかったが、発生から治癒までに93日要した。


そこで、Aライン接続部でのMDRPU対策を徹底するために専用の対策品の導入を検討しました。その結果、動脈に穿刺するため感染面も考慮し滅菌済かつ除圧効果の高い製品として「ココロール
カテ用」を導入したいと考えました。
医療材料委員会にて、救命センターで発生したMDRPUの事例、治癒までにかかったコスト(看護師の人件費含む)と対策品の導入コストの比較を提示し、導入の必要性を訴えました。
委員会で提示した想定コスト比較
治療処置にかかる金額
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ゲーベンクリーム外用薬、ガーゼ、洗浄にかかる材料コスト
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看護師の処置時間10分+記録時間5分にかかる人件費
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最大治癒日数28日間
使用した場合の金額
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長くて3週間程度の留置期間中に使用する
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製品3枚分の材料コスト(1回/週で材料交換)
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看護師の材料交換の時間(約3分)にかかる人件費
結果、委員長(医師)やそのほかの委員(看護副部長や看護師長など)には賛成していただけたものの、用度課からは、人件費等の間接的なコストはあくまで参考に過ぎず、額面上の購入費用が新規発生する材料は導入できないと反対されてしまいました。
そのため、想定上の費用対効果試算だけでなく、現行の方法にかかっている材料コストの試算や、対策品による実際のMDRPU発生減少効果の検証を行う、というアプローチに切り替え、より現実に即した効果を示すことにしました。
救命センターにおける現行の固定方法では、粘着性伸縮包帯を滅菌処理したものを使用していました。(1枚を土台として皮膚に直接貼付し、Aラインを挟むように上から残りの1枚で固定)これは除圧ではなく誤抜去予防のためであり、実際にAライン抜去時にMDRPUが発生していることがありました。(感染や安全面から固定の交換は行わず、適宜挿入しなおしている)
▼ 従来の固定時の様子

▼ 実際に救命センターで発生した事例
治癒までにかかった期間は19日

この方法では、院内での滅菌費用も含めると粘着性伸縮包帯にかなりのコストが発生しており、「ココロール
カテ用」に置き換えることで約40%のコストカットができることが分かりました。
救命センターの医師へカンファレンスの時間を利用し、AラインのMDRPU発生状況や現行の固定方法の問題点、対策として「ココロール
カテ用」を使用したい旨を説明。すぐに医師たちからの同意を得られ、「ココロール
カテ用」の効果検証のためのプレ運用が開始となりました。また、医師だけでなく救命センターの主任看護師にも協力を依頼し、スタッフ全体への周知をはかりました。
▼ 「ココロール カテ用」使用時の固定


このようなスタッフへの意識づけも行ったうえで、実際に2023年2月~7月の約半年間プレ運用を行った結果、 救命センターでのAラインによるMDRPU発生をゼロ件に抑えることができました。
「ココロール カテ用」プレ運用の結果
☞「ココロール カテ用」はAライン挿入部周囲のMDRPU発生予防に効果があった
この結果をもとに医療材料委員会にて再度「ココロール カテ用」導入についてプレゼンテーションを行い、用度課からも許諾を得たうえで正式な導入が決定しました。
その後、当院の褥瘡対策マニュアルのMDRPU項目にAラインに関する内容を追加。Aラインを留置する患者に対して予防対策を徹底しています。2024年4月からは救命センター以外にも使用部署を拡大させ、OP室(心外手術、小児手術)、サージカルICU、小児重症室でも「ココロール カテ用」を使用した対策を開始しています。(2025年2月現在、Aライン接続部でのMDRPU発生はゼロ件を継続中)現在、NICU(新生児集中治療室)での使用も検討しています。

●以上の内容は、あくまで予防対策の一例として紹介するものであり、効果を保証するものではありません。
●執筆者のご所属、施設の状況、ケア状況、症例などは執筆当時(2025年4月)時点のものです。
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